2023年度「ひらめき☆ときめきサイエンス」を開催しました

コンピュータ・シミュレーション分子模型を活用してタンパク質が活躍するミクロな世界の楽しさ・面白さ・不思議を紹介する講座(ひらめき☆ときめきサイエンス)を千葉工業大学で開催しました。

ひらめき☆ときめきサイエンス とは?

大学や研究機関で「科研費」により行われている最先端の研究成果に、小学5・6年生、中学生、高校生の皆さんが、直に見る、聞く、触れることで、科学のおもしろさを感じてもらう事業です。今回のプログラムは、日本学術振興会に採択され、実施に必要な経費を支援していただきました。

会場は、千葉工業大学・津田沼キャンパス。開講の2時間くらい前から、ヤマラボの学生応用化学科の2〜3年生と一緒に、受講生をお迎えする準備をはじめました。

受講生の机には、さまざまな種類の分子模型を配布。コンピュータ・シミュレーションと分子模型を上手に活用することで、タンパク質が活躍するミクロな世界の楽しさ・面白さ・不思議を紹介します。

目次

開講式

会場はコンピュータ演習室。たくさんのパソコンが並んでいます。開講式では、はじめに、実施者である山本が研究者になるまでの体験談などをお話しながら、自己紹介。

そして、私たち研究者をサポートしていただいている科学研究費助成事業(科研費)についても説明しました。

開講式の最後は、緊張をほぐすためのアイスブレイクをおこないました。受講生同士の自己紹介も盛り上がって、緊張がほぐれて、リラックスした雰囲気に。

講義①:かたちで決まるタンパク質のはたらき

最初の講義では、タンパク質の「かたち」と「はたらき」の関係についてお話しました。高校生物の教科書などで見るタンパク質は、とても複雑なかたちをしています。その正体は、多数のアミノ酸が連なってできた長い1本の紐

この長い紐が、絡まったり、間違ったカタチを作ったりしないで、正しいかたちを素早く作ることができるふしぎなメカニズムがあることについて、タンパク質の立体構造を組み立てることができる分子模型(←午後の実習で組み立てます)を使って説明しました。

タンパク質は私たちの体の中で、アミノ酸配列にしたがって多様なカタチを形成することで、生命活動を維持するための様々な機能を発揮します。

受講生には、ひとりひとり、異なる種類のタンパク質模型を配布。400万倍の手のひらサイズで、分子表面を表す透明な樹脂のなかに、タンパク質の骨格構造が美しく表現されています。

この素敵なミニ分子模型は、いつもお世話になっている スタジオミダス の中村さんに製作していただきました。受講生の皆さん、持ち帰った模型を友達や先生に自慢しよう!

タンパク質模型を手に、専用ソフトウェアを使って構造データバンク(PDB)に登録されている立体構造を確認したり、ひとりひとり異なる種類が配布されているので、受講生同士で違いを比べてみたり。

講義の後は、ティーティング・アシスタントの大学生がサポートしながら、「こんなことを理解したと思うんだ」と、考えたこと・気付いたことを受講者同士で共有する時間

講義②:タンパク質のかたちと病気

アミノ酸が置き換わることで、タンパク質の性質が変わってしまい、病気を発症してしまう場合があります。2つめの講義では、タンパク質の変異や構造異常が原因で起こる病気についてお話しました。

高校生物の教科書には必ずと言っていいほど登場するヘモグロビンは、赤血球の成分のひとつとして酸素を運搬するために働くタンパク質。私たちの生命活動を担うタンパク質の代表例です。

今回、このヘモグロビンの6番目のアミノ酸がたった1個置き換わることが原因となる鎌状赤血球貧血症について、コンピュータ・シミュレーションと分子模型を活用しながら解説しました。

鎌状赤血球貧血症は、タンパク質表面にある親水性アミノ酸が疎水性のものに置き換わることで、ヘモグロビン同士が相互作用しやすくなってしまい、異常な凝集体を形成することが原因だとされています。

コンピュータ・シミュレーションに基づいて、ヘモグロビンのなかでアミノ酸が置き換わる部位も実際に確認。タンパク質のかたちと病気の深〜い関わりについて、興味を持ってもらえたかなと思います。

最後に、鎌状赤血球貧血症は悪いことばかりではなくて、マラリアに対する防御効果があることも説明。振り返りの時間には、この病気について、受講生同士で様々な意見が交わされていました

キャンパスツアー&昼食

午前中の講義が終了した後、10名程度のグループに分かれて、キャンパスツアー。はじめに、分子の構造を解析するためのNMR分光装置を見学。

次に、本学・先進工学部・生命科学科の坂本先生にお願いして、DNAの塩基配列を解析するための次世代シーケンサーを見学させていただきました。

昼食は、各自で持参してもらったものをキャンパス内のラウンジに集まって会食。昼食後、分子模型を展示していた机の周りに皆さんが自然と集まってきました。様々な模型に興味津々

実習①:コンピュータの中で薬を設計してみよう

新しい薬を開発しようとするときに、コンピュータの中で分子のふるまいを再現(シミュレーション)することで薬の候補となる分子を効率的に探し出す「インシリコ創薬」が活用されています。

午後の実習では、はじめに、創薬支援のために開発されている分子設計アプリである myPresto Portal を用って、コンピュータの中で新しい薬を設計して競い合うインシリコ創薬コンテストを開催しました。

創薬のターゲットは、インフルエンザウイルスの感染機構に重要な役割を果たすノイラミニダーゼというタンパク質。リレンザやタミフルなど、インフルエンザ治療薬にお世話になったひとも多いのでは。

ここでも分子模型が大活躍。3Dプリンターで制作したノイラミニダーゼの模型を用いて、タンパク質と薬のかたちの相補関係を直感的に理解してもらえることができるように工夫しました。

このノイラミニダーゼの分子模型は、昨年度、 バイオモデリングリサーチ の中村さんに製作していただきました。タンパク質に結合している化合物は取り外しも可能です!

このインシリコ創薬コンテストでは、結合部位付近のアミノ酸の化学的性質の違いなど、午前中に学んだことも踏まえながら、標的タンパク質であるノイラミニダーゼとより強く相互作用しそうな分子を自分で設計します。

「分子量は 400 g/mol 以下」などのルールもあって、受講生たちはいろいろと試行錯誤。アシスタントを務める大学生のアドバイスなども参考にしながら、集中して分子の設計に取り組んでいました。

受講生が自ら設計した分子と標的タンパク質であるノイラミニダーゼの相互作用の大きさを分子設計アプリで評価。意外に相互作用が小さくて悲しかったり、予想通り相互作用が大きくて喜んだり。コンテストなので、もちろん、ベストな分子を設計した優勝者には大きな拍手

この講座で用いた分子設計アプリの myPresto Portal は、開発元のバイオ産業情報化コンソーシアムで 無料配布 されているので、この講座が終わってからも、様々なタンパク質を自分で調べることもできます。

実習②:タンパク質のかたちを作ってみよう

午前中の講義に説明したように、タンパク質の正体は、多数のアミノ酸が連なった長〜い1本の紐。どうやったらこの長〜い紐が、絡まったりしないで、正しいかたちを素早く作ることができるのでしょうか?

2つめの実習では、タンパク質のかたちの成り立ちを直感的に理解するための教材として、タンパク質を組み立てることができる分子模型キット Tangle Protein Building Set )を準備しました。

受講生たちは、タンパク質の二次構造ごとに色分けされた一本のヒモを手に取り、ペプチド鎖からタンパク質の複雑な立体構造を組み立てることを体験。

アミノ酸のひもがクルクルとらせんを巻いた部分を「ヘリックス」と呼ぶんだけど、これを作るのがとっても難しいんです。しっかりと手で押さえながら、丁寧に組み立てよう!

かな〜り苦戦しながらも、ティーチング・アシスタントの学生たちが上手に手助けしてくれたことで、受講生全員、上手に分子模型を組み立てることができました!

タンパク質は、1本のペプチド鎖のなかでアミノ酸同士が適切に相互作用することで、明確に定義された立体構造を形成します。今回の体験を通して、タンパク質のかたちが成り立つ仕組みの巧妙さを実感していただけたのでは?

受講者が組み立てた分子模型は、持ち帰ってもらうことができます。高校の授業でタンパク質のことを学ぶときには、この分子模型を先生や友達に自慢することができるかも。

修了式

修了式では、はじめに、朝永振一郎の「ふしぎだと思うこと、これが科学の芽です」という、私の大好きな言葉を紹介してみました。そして、科学の「め(目)」の決めポーズ!

受講生ひとりひとりに修了証(未来博士号)を手渡しました。最後に、自分で組み立てた分子模型を手にして、みんなで記念撮影。おつかれさまでした!

タンパク質のかたちが巧みに制御されて多彩な機能を発揮するとき、自然の妙美の極みである生命現象が生まれます。このプログラムが、私たち研究者が取り憑かれているタンパク質の魅力について、興味・関心をもっていただくきっかけになっていたら嬉しいなと思っています。

お世話になった方々

前日までの準備、そして、当日のアシスタントとして、受講生の学びを熱心にサポートしていただいたヤマラボの4年生・大学院生の皆さん&応用化学科の2〜3年生の皆さん

キャンパスツアーにご協力いただき、実験装置を分かりやすく説明していただいた、 本学・先進工学部・生命科学科の坂本先生

ヘモグロビンやさまざまなタンパク質の素敵な分子模型を3Dプリンターで制作していただいた 株式会社スタジオミダス の中村さん

当日の様子を撮影していただき、受講生の皆さんが生き生きと輝いている姿を素晴らしい写真におさめていただいた 株式会社光陽モネカ の植村さん

ひらめき☆ときめきサイエンスの事務手続きで大変お世話になった本学・教学センター・研究支援担当の畑中さんと山本さん

そしてもちろん、今年度も採択いただき、必要な経費を支援していただいた 日本学術振興会・ひらめき☆ときめきサイエンス事業 

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この記事を書いた人

千葉工業大学 応用化学科 教授。専門はコンピュータ化学、コンピュータを使って分子を解析しています。化学の学びを身近にすることにも興味を持っています。

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