山本研で実践している卒論・修論を研究室の学生同士でお互いに読んで評価(ピア・レビュー)するという取り組みを紹介します。
学生同士でお互いの卒論を読み・評価することで、批判的思考力や自分の成果物を客観的に評価・改善するスキルを育むことが期待できます。
研究室の仲間からのフィードバックがあることで、卒論・修論に取り組むモチベーションを高めることにもつながります。
ピア・レビューとは?
私たち研究者が学術雑誌に論文の原稿を投稿すると、同じ分野の専門家によってその原稿がチェック&評価されます。このピア・レビュー(査読)と呼ばれる他者評価によって、投稿した論文が採択されるか・不採択になるかが決まります。
学術論文のピア・レビューは、今では当たり前になりましたが、制度が本格的に確立したのは1970年代以降のようです(→ 有田正規「学術出版の来た道」 )。なぜかと言うと、この頃まで、原稿を手軽に複写できるコピー機が普及していなかったから。
複写機のない時代に今のような査読はできない。せいぜい知り合いの研究者に原本を見せ、コメントをもらう程度だろう。現在のようなピア・レビューは、技術的にも予算的にも、1970年代にならないと普及できなかった。
私が投稿した論文も、もちろん、このピア・レビューの過程を経て学術雑誌に掲載されています。また、学術雑誌から依頼を受けて、他の研究者の論文をレビューする機会もしばしばあります。
研究者にとって、自分の研究の成果をまとめて公表することだけではなく、他の研究者の論文原稿を的確に評価して、より良い内容となるように適切にアドバイスができることも、大切なスキルのひとつです。
さて、他の研究者の論文をいくつかレビューしていると、自分が書いている論文についても、ここがうまく書けていないかも、こうすればもっと論理的に分かりやすく説明できそうだな、などなど、客観的に評価するコツについて、いろいろな気付きが得られることもしばしばあります。
つまり、他のひとの成果物を的確に評価することができるようになると、自分の成果物を正しく評価して、適切に改善することが上手になることが期待されます。
卒論・修論にピア・レビューを
さて、卒論・修論です。卒論・修論は、大学で取り組んだ学びの集大成。この卒論・修論を教員だけが読んで終わりとするのではなく、研究室の学生同士でお互いの卒論をピア・レビューすることで、批判的思考力や自分の成果物を客観的に評価するスキルを育むことができるのではないでしょうか?
このピア・レビューのアイデアは、 近田政博(編著)「シリーズ 大学の教授法 5 研究指導」 を参考にしています。
ピア(同僚)を学生間と仮定すれば、「書かれた内容についての学生相互の評価」という意味になります。内容をさらにブラッシュアップするためには、評価者は発表者に対していかに建設的なコメントを提供できるか、発表者はそのコメントを受けていかに改善できるかという力量を問われます。
研究室における学びにおいても積極的に学生同士の協働活動を取り入れることにより、個人では得がたい学習効果の獲得を促すことができると考えられます。
研究室の仲間の卒論・修論を読んで評価するという協働活動を通して、他のひとの卒論の良いところ・優れた工夫から学べることもたくさんありそうです。また、自分の進捗状況がどのくらいかを客観的に把握することの助けにもなるのでは。
そして、他のひとの真剣な取り組みに対して敬意をもってフィードバックし、**そのひとから「励みになった」「助けになった」「役に立った」**という言葉がもらえたならば、自らの卒論を苦労して書き上げる経験と同じくらいに、大切な気付き・学びが得られるように思っています。
卒論・修論チェックリスト
私の研究室では、学生同士で卒論・修論のピア・レビューするときに、 論文作成のポイントをまとめたチェックリスト を使っています。
このようなチェックリストは、評価の観点を明らかにするための便利な道具というだけではなく、卒論・修論で何を書くべきか・何を目指すべきかの道しるべにもなります。このチェックリストの全項目が完璧になることを目指すことで、長期的に取り組む卒論でも、現時点とゴールまでの差を逐次チェックしながら、迷子にならずに、ゴールに向かって着実に進むことができます。
教員がひとりひとりの学生に対して個別に卒論・修論を指導するときにも、このチェックリストに基づいて、この原稿のどこがどういう理由でよくできているか・もっと改善できそうかを具体的に示すことが期待されるため、より的確なアドバイスができるように思っています。
ということで、卒論・修論を研究室の学生同士でピア・レビューするというアイデアをご紹介しました。